おふろの王様は誰だ!?

以前から、発汗をすると体調がよかったので、なにか運動以外で方法を探していたら低温サウナというものが見つかった。従来の、ジジイが自己顕示欲を満たすために、他のジジイより先に出ない高温サウナではなく、50℃くらいの温度が低いサウナだ。

高温サウナは、ジジイが最後のプライドで死ぬだけでなく、急な発汗で水分ばかり出てしまうという問題があり、低温でゆっくり汗をかくと脂肪が燃えやすく、体への負担も軽い。

入浴でもいいのだけど、水圧の関係で長居できるのは低温サウナだと思う。半身浴は水圧が低いけど、肩が冷える。ここら辺の知識と経験は、平均的なOLに勝ってる自信がある。平均的なOLに勝る意味ないけど。

低温サウナはどこの銭湯にもあるものではなく、近所では数軒しか見つからなかった。おふろの王様というところはチェーン店で、料金が安く行きやすかったので、グーグルレビューにハッテン場と書いてあった大井町店より近場の、多摩百草店に向かうことにした。

ガヤガヤした温泉に入るんだったら、家の風呂に好きな入浴剤とか入れたほうがよっぽど落ち着くと思うのですけど、入浴場はけっこう人がいて、浴槽から泡が出るバブル温泉に人がたくさんいた。泡の半分がおっさんのおならな気がしたので通り過ぎ、低温サウナの部屋にたどり着いた。

室内は6畳くらいの広さで、等間隔に利用者が座る台が8つあった。部屋の中央に謎の壷と岩塩が置いてある。始めに塩を体に塗ることで、発汗を促すということだった。

室温はけっこう気持ちいい感じで、デトックスのためにちょうどな温度だと思った。これがサウナの適温で、高温サウナは始めからジジイを殺す目的で作られたのでは?

僕が入室する前に中年男性2人が入っていて、じっくりと汗を出してる感じだった。

10分くらいで、体調というか気分がよくなってくるのが、けっこうはっきりと分かった。毒素が排出とか細かい仕組みは分からないけど、とにかく発汗はわりと大事なんだと思った。あ~とか言ってけのびをしてたら、壷が爆発した。部屋の中央にある壷です。蒸気が出て室内を暖めなおしていたのだけど、僕は爆発だと思いました。

すごい勢いで蒸気が出ている。同室のおっさん二人は動じていない。僕は新幹線のトイレに入ったことがない。でも中川家の剛が、新幹線のトイレの激しすぎる水洗の音のマネをしてるのを見たことがある。あれの3倍みたいな音量で壷が爆発した。

ゴォーーーーーー シャッ シューーーーー ッコッ シュンシュンシュンシュンシュンシュン

おっさん二人は動じていない。むしろおっさん二人の真髄はここからだった。蒸気が止まり、室温が上がった。まあこの音は、常連の人には慣れたものなのかなと思っていたら、ふくらはぎの運動を始めた。おっさん1がだ。

俺はこれを見たことがある。雨の日にグラウンドを使えない運動部が、狭い体育室とかでやる筋トレだ。段差に足の半分、つまさき側を乗せて、残りの後ろの半分を宙に浮かせ、その体勢で背伸びをしてかかとを上げる。たしかリフトアップというやつだ。

それをおっさんが石段でやっている。室温は50℃だ。僕が入ってから十数分は経っていた。僕それ知ってるよ。それふくらはぎが結構きついやつだよ。何やってんの。いちおう神経の観点から言うと、せっかく落ち着いた副交感神経がリフトアップで悪化するよ。

20回くらいでやめた。いや知らないよ。20回ならセーフの概念とかないから。でおっさん2は瞑想してるしね。気づかなかったわ。知らないよもう。あれが本当に瞑想なのかも分からないよ。狭い場所なのであぐらはかいてないけど、お腹の前で両手を組んで目を閉じてるよ。瞑想だろ。それが瞑想だろ。その発汗量なら、本当に違う世界が見えるよ。がんばって。応援してる。

ここまでで、多分20分くらい経ってたと思う。二人に比べると情けないけど、自分はもう出ることにした。室内の状況に驚いたのもあるけど、普通に喉が渇いていた。

かなりびっくりしました。何がびっくりしたかと言うと、二人とも自分の行(ぎょう)に集中していて、他人を気にしてなかった。まさに行。仮にサウナで変わったことをして問題が起きても、その責任をすべて自らが負うという気概を感じた。因果応報。カルマというやつだ。

僕の体調はけっこうよかった。お金もかかるし、誰もが利用したほうがいい場所ではもちろんないけど、普段の調子があまり良くない人にはおすすめしたい。

休憩所で水を飲んでいたら、ふと「おふろの王様」というロゴが目に入った。もしかしたらここは、利用者の中からチャンピオンを決める、コロシアムだったのかもしれない。だっておかしいじゃん。なんでサウナでリフトアップと瞑想してるの。高温の中で、いかに己を高めるかを競う場に見えてしまった。自分の中で、二人のどちらがおふろの王様かを考えた。まあリフトアップかな。あれは野球部が「ふくらはぎいってる」と帰り道で言うやつだよ。なんでサウナでやってんの。やめてよ。僕は怖かったんだ。

会計を済ませ、入り口前に来る駅までの送迎バスを待っていた。「あなたこれ乗るの?」と婦人が婦人に聞いていた。けっこう発汗した感じがあってボーっとしてたけど、「いやわたし歩くから」とはっきり聞こえた。駅までは徒歩25分だ。もう分かった。お前がおふろの王様だよ。女性だから王女様だけど。もう分からないこの人たち怖い。ありがとうおふろの王様。また来るよ。