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サカナとアクションでサカナクションだった

伯父が家に遊びに来まして、当然無職の僕はある程度相手をしなくちゃいけないんですけど、この伯父の話が本当につまらないんですね。いや僕だって万人を楽しませる天才的な話術がある訳じゃないですけど、伯父は本当につまらないんですね。よく映画の感想とかで「面白かった」とだけ言う人がいますが、それは多分直感が理論に追いついてなくて、本当は色々と感じているはずなんだけどそれを言葉にする術を持たないんだと思います。もちろん僕は未熟者ですけど、なるべくこの直感だけで止まらないように意識して生活してるんですね。結果に対してなるべく原因や背景を考えるようにしてるんですが、伯父に関してはその作業が必要ないんですね。直感という概念を超えた全身を突き抜けるような「つまらなさ」が確立されていて、例えば人が美しいものを見た時にいちいち理詰めでその原因を考えることがないように、確かに僕たちの五感が感じるがままに、伯父の話はつまらないんですね。

「面白くない」ことの厄介なところは「挑戦をしてる」というところで、当然普通に会話をしてればつつがなく過ごせるのに、そこに「余計」を放り込んでるんですね。その余計が好転すればまあいいんですが、これが失敗した場合、発言単体のつまらなさ+余計を放り込んだ罪で二重に不快な訳です。これは何気ない会話をするより余程厄介なことです。冷たく聞こえるかもしれませんが、これが笑いを取りにいくというメカニズムの実相だと思います。

このダブルクライムを背負った伯父、何故か去年船舶免許を取った伯父とお茶を飲んでたんですが、まあ悪い意味で絶好調なんですね。弓道部の練習で例えるとあの中央が黄色い5色の的、その5色の的に当たらないで隣の顧問に刺さっちゃうみたいな、武道の根本にある「人を傷つけるためではない」という鉄則を踏みにじるかのような発言が次々飛び出すんですね。

僕は基本的に口下手なので相手の話を聞いてる方なんですが、このまま彼に舵を取らせてるとグランドラインどころか東シナ海あたりに漂流してしまうと思ったので少しずつ主導権を握っていきました。そうは言っても伯父とは年齢も離れていますし、家族の話は伯父が結構してたので、人類の共通娯楽、音楽の話をしてみました。さすがにこのくらいポピュラーな話題なら会話を先導できると思っての判断でした。自分で話を振ったからには当然自分の趣味も話す訳ですが、ここで表題のサカナクションが出てくるんですね。サカナクションは最近友人にすすめられて聴き始めたので、まあ適当にそこら辺のメジャーバンドの話をして空気を緩和しようとした矢先、伯父が「サカナとアクションでサカナクションか!」と言い出したんですね。

もうお前はほんとにアレ。アレという名の牢獄から出ることができないよお前は。こっちがせっかく会話の軌道修正をしようとしてるのになんでそこにまた爆弾を放り込んでくるのか。お前はイルカの調教師とか見たことないのか。あの人たちは一見イルカをただ従えてるようだけど実際はイルカとのコミュニケーションを大事にしてて、その信頼関係のもとにイルカショーをやっているんだよ。それに比べてお前はなんだ。俺というイルカを棒でつついた上にものすごい小さな輪をくぐらせようとしてるよ。ヒレが引っかかるよ。

そんな僕の想いとは裏腹に、伯父はその後も絶好調で時折「ガハハ!」と山男みたいな笑い声を上げて帰っていきました。

さて、人間は基本的に自分の非を認めたがらないものでそれに関しては僕も例外ではないんですが、それから急に不安になったんですね。これだけ嘲笑に近い感情を持った伯父がもし正しかったら。非難する側の認識に決定的な間違いがあって立場が逆転してしまったら。自分の非を認めたくないからこそ、自分の是を確認して安心する。そんな保身の感情が湧きあがってきてサカナクションのことを調べたんですね。

まあタイトルを見れば分かるんですけど、サカナとアクションでサカナクションだったんですね。詳しくはサカナクションwikiとかを見てほしいんですが、バンド名にあまり使われてない「サカナ」という単語と、変化を恐れずにやっていこうという意味を込めた「アクション」をくっつけたらしいです。これ伝わるか分からないけどこれしか当てはまるのが思いつかないので書きますけど、その時の僕の感情はドラマ「薔薇のない花屋」で竹内結子演じる美桜が核心に触れるビデオレターを見て自分が復讐した相手が見当違いだったと気づいた時の感じでした。あの時の竹内結子の演技はすごくて、自分の過ちに気づいてパニックになり「ハッツ!」みたいな、こう書くとケンドーコバヤシがピンクローター漫談やってる時みたいですけど、そういう声にならない声が漏れていました。そしてその竹内結子の魂がサカナクションの由来を知った時の僕に宿ったのです。

いや僕だってね、バンドのネーミングのこととかは分からないけれども、まさかサカナとアクションでサカナクションとは思わないですよ。じゃあお前の考えるサカナクションの意味はなんだって感じですけど、そんなヤン坊とマー坊二人合わせてヤンマーだみたいなことだと思わないじゃないですか。由来を聞けばある程度納得できますけど、これ要するに伯父の発想と同レベルってことだからね。伯父の家では猫を飼ってるんですけど、たまたま僕が遊びに行った時にかつおぶしが切れてて、切羽詰まった伯父はかつおぶしの代わりにカットわかめあげてたからね。当時は僕も猫を飼っていて、猫にあまり人間の食べ物をあげたらいけないっていうのは知ってたので、「わかめあげて大丈夫なの?」と聞いたら「ああ、乾いてるから同じだろ」と言ってましたからね。猫の消化能力の可能性を乾燥という広い要素で見込んでたからね。そんな発想のスラム街で育った伯父に、即座に名前の意味を当てられた訳です。それでいいのかサカナクション

でもまあ今回の僕の非は認めざるを得ないところで、何事もなめてかかると痛い目にあうなと思いました。最近は遊戯王カードのネット対戦にハマっていて、そこであまりにも不整合な戦略で挑んでくる人もいるんですけど、そういう時こそ伯父を思い出して気を引き締めたいと思います。カットわかめは普通に吐いてました。終わりです。